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(20)病院内・階段
   屋上まで続く人気のない階段。
   上っていくなお。
   重い足取り。

(21)屋上(昼・曇天)
   誰もいない屋上。
   なお、ただ一人。
   まるで世界にただ一人しかいないよう。
   コンクリート・ジャングル。
   都会の中の病院。
   周りに立ち並ぶビルの群れはまるで孤
   独ななおを見下ろしてるかのよう。
   そっと、空を仰ぎ見るなお。
   ぽつ、ぽつ。
   降り出す雨。
なお「・・・雨」
   だんだんときつくなり、どしゃぶりに
   なる。
   動かない。
   その中で、空を仰ぎ見ながら立ち尽く
   すなお。
   そっと両手を広げてみる。
   飛びたい?
   飛べる?
   目を閉じる。
   両手を広げてじっと立ち尽くし続ける。
   何も変わりはしない。
   飛べるはずもない。
   ただ、降り続けるどしゃぶりの雨。
   変えれない。
   手を下ろし、目を開ける。
   雨の中の風景は、世界のおわりのよう。
   しゃがみ、うつむき、膝のあいだに顔
   をうずめるなお。
   この雨は、なおのどしゃぶりの心その
   もの。


(19)病院・222号室(昼・曇天)
   ベッドに寝ているさき。
   けほっ、けほっと咳をしている。
   かなり悪くなっている病状。
   どこかから帰ってくるパジャマ姿のな
   お。
   頭には、また新たに包帯をまかれてい
   る。
   ベットの横に簡易椅子を置き、さきの
   方を向き座るなお。
   重い表情。
   なおに気づくさき。
   弱弱しく笑顔を向ける。
さき「なおちゃん・・・」
なお「しゃべんなくていいよ」
さき「ごめんね、なおちゃんばっかり怒ら
 れて・・・」
なお「謝んなくていいよ、連れ回したの、わ
 たしだし」
さき「忘れたの?私たち、同罪だって言った
 でしょ」
なお「そんなに悪いとは思わなかった」
さき「ちゃんと言っておけばよかったね。な
 おちゃんこそ、頭は?」
なお「いちおう、異常なし」
さき「よかった」
なお「さきのお父さんとお母さん、近いうち
 に来るって看護師さんが言ってたよ」
さき「そう」
   じっと天井を見つめるさき。
   けほっ、けほっとさき。
   思わず駆け寄るなお。
なお「大丈夫?」
さき「・・・いつものことだよ」
なお「聞いていい?」
さき「なに?」
なお「どれだけ悪いの、カラダ」
さき「治らない」
   その言葉に、ドキッとなるなお。
   硬直している。
   さき、じっとなおの方を見ている。
なお「(意を決して)・・・死んじゃうって
 こと?」
さき「(微笑んで)ちがうよ、勝手に殺さな
 いで」
なお「治らないって」
さき「今日すぐ死ぬかもしれないし、おばあ
 ちゃんになるまで生きられるかもしれない。
 良くなったり、悪くなったりの繰り返し。
 ちょっと気を抜いたらすぐ悪くなる」
なお「・・・それ・・・」
さき「前に、ね、なおちゃん、わたしたちが
 病院にたくさんお金落としてるって言った
 よね。パパとママ…私のために無茶ばっか
 りしてる。治療費をずっと払い続けなきゃ
 いけないから。なのに私は完全に治らない」
なお「だからさきのパパとママはぜんぜん
 来れないんだ・・・完全に治す方法ない
 の?」
さき「今の医学じゃ無理なんだって。ときど
 き死にたくなるの。お荷物になってるのわ
 かるから。でも、死にたくない。もっとい
 ろんなことたくさんしたい」
なお「……」
さき「それになおちゃんに会えた。なおちゃ
 んともっともっといろんなことしたい。健
 康になりたい」
なお「・・・なんで、ちゃんと言ってくれな
 かったの」
さき「言ってもどうにもならないから。話し
 たら避ける人ばっかりだった。なおちゃん
 には避けられたくなかったから」
なお「(怒って)わたしが避けると思う!?」
さき「わかんない…」
なお「バカ!」
   怒って部屋を出て行くなお。
   黙って見送るしかないさき。
   天井を見つめ、そっと目をとじる。


(18)ホテル(深夜)
   けばけばしいホテルの一室。
   過剰演出ぎみな照明。
   ベッドに腰かけているなおとさき。
   二人の間には、大きなケーキ。
   小さなプレートに書かれているのは、
   『はっぴーばーすでー なお&さき』
   の文字。
さき「とうとう無断外泊だね」
なお「違うよ、ちゃんとさっき病院には今日
 はなおの親戚の家に二人で泊まって帰り
 ますって言ったじゃん」
さき「なおちゃん、言うだけ言って、電話
 切っちゃったじゃない。ほとんど無断外泊
 と変わんないよ、これ。(と、言いながら
 ニコニコと楽しそう)」
なお「いいじゃん、だったらさきは帰れば?」
さき「ここまできて、それはないよぉ」
なお「フフ…」
さき「いっしょだよ、ずっと」
   ケーキをじっと見る二人。
   ローソクの一本一本に火を灯す。
   薄明かりの中、ゆらめく炎。
なお「今日は二人の誕生日」
さき「ハッピーバースデー、なおちゃん」
なお「ハッピーバースデー、さき」
   二人でふっとローソクを吹き消し、ゆ
   っくりと見つめあう。
   自然に、顔が近づき、まぶたを閉じ、
   唇を重ねあわせる。
   長いキス。

   ゆっくりと流れていく二人だけの時間。(絡み)
    
   安らかになおの腕の中で眠るさき。
   このまま時間が止まってしまえば
   いい・・。    
   
   
さき「ゴホッ、ゴホッ!」
なお「さき!?」
   突然、激しく咳き込むさき。


(16)病院・222号室(昼)
   それぞれの制服に着替えているなおと
   さき。
   二人ともうきうきして着替えている。
   着替えているあいだも、ちょっかいだ
   したり、はしゃぎあったり。
   頭の包帯をとるなお。
   驚くさき。
   大丈夫、と、笑顔のなお。
   着替え終わってお互いを見る。
   それぞれに可愛い制服姿のなおとさき。
   満足そうな二人。
   何か企んでいるような二人の笑顔。
   制服姿のまま、こっそり部屋を出る二
   人。
   ベットの上には、
   『買い物に行ってきます。
        夜には戻ります。
             なお&さき』
   と、走り書きの書き置き。

(17)街中
   繁華街。
   たくさんの人ごみ。
   手をつないで喋りながら通りを歩く
   なおとさき。
   今までで一番楽しそうで生き生きして
   いる二人。
   他愛のないことでも、けらけら笑って
   いる。
   人ごみの中ではどこにでもいる、普通
   の女子高生の仲良し同士の二人にしか
   みえない。
   街中には、彼女たち以外にもたくさん
   の学生たちがいる為、なおさら目立た
   ない、ありふれた二人。
   いまごろ病院じゃ大騒ぎだよー、
   とか、
   帰ったら大目玉だろーなぁ、
   とか、
   他愛のないことをしゃべっている。
   (ここの一連のシーンはBGMのみで
   セリフはなし、イメージビデオ的に)

   ウインドウショッピングを楽しむ二人。
   服、バッグ、アクセサリー、ネイル。
   …etc.   

   買い食い。
   ファーストフード、アイス、クレープ、
   ドリンク。
   …etc.
   
   カラオケ。
   歌って、叫んで、笑って、泣いて。

   プリクラ。
   いろんなポーズをとって何枚もとる。
   最高の笑顔。ときには変顔。

   夜のとばりが降りてくる。
   人ごみの中を腕組みながら歩いていく
   二人。
   二人の姿は人ごみの中にまぎれていき、

   そして、見えなくなった。


(15)屋上(昼)
   病院の屋上。
   抜けるような青い空。
   特等席に陣取り、甘い物を食べている。
   パジャマ姿のなおとさき。
   いさぎよい食べっぷりの二人。
   一角では白い洗濯物の集団がぱたぱた
   と風に揺られて音を立てている。
   (特に大きな白いシーツは風景の一部
   を完全にかくしている)
さき「顔ぐらいみせたらいいのにね、差し入
 れだけ置いてっちゃったんだね」
なお「いいよ、あの人の顔みたくないし」
さき「えー、嫌いなの?」
なお「さあね…」
さき「かわいそう、なおちゃんのお母さん…」
なお「別にいいんだ(ツンとする)」
さき「おいしかった(両手を合わせ)なおちゃ
 んのお母さん、ごちそうさま」
なお「あっもうないんだ。あーあ。もっとた
 くさん、置いてってくれれればいいのに」
さき「ぜいたく言ってるよ」
なお「全然、足りない!んーこうなったらさき、
 食っちゃうか!(と、抱きつこうとする)」
さき「(笑いながら)きゃー、やだー、なお
 ちゃんのヘンターイ!(立ち上がって、逃げ
 出す)」
   白いシーツの群れの中に逃げ込むさき。
   追いかけて群れの中に飛び込むなお。
   いきなり、白いシーツを使ったかくれ
   んぼ状態になる二人。
   白いシーツの間をぬって、姿をかくし
   たり、ひょっと顔を出したり。
   じゃれあう二人。
   シーツはめちゃくちゃ。
   寝っころがって空を見上げる二人。
さき「あーあ、怒られるよ」
なお「後で謝っとけばいいって」
さき「叱られた事無いのに」
なお「つまんないよ、そんな優等生ぶりっこ」
さき「あ、優等生のくせに」
なお「優等生ゆーなー」
   シーツの上、さらにじゃれあう二人。
   ひとしきりじゃれあった後、
さき「ねえ、なおちゃん」
なお「ん」
さき「なんでお母さん嫌いなの?」
なお「・・・嫌いって言うか」
さき「なに?」
なお「うちは母子家庭でさ。お父さんはずっ
 と前に亡くなっちゃった。医者だったの。
 けど、ぜんぜんうちにいなかった。忙しか
 ったんだと思うけど。自由な人でさ。まあ
 でも、お金かせいでくれて食べるのに困ら
 なかったのは感謝してるけど。親の見栄の
 せいであんな進学校に入れられちゃったよ」
さき「入れるだけすごいよ」
なお「一応、食べさせてもらってるし、弱み
 見せたくなかったから勉強はがんばったよ。
 でもね・・・やっぱりだめ。最近すごくつら
 くなってた。あの人、やたら私に医者に
 なれって言うんだ。医者は立派な職業だと
 思うけど。自分が本当にやりたいことかど
 うかわかんない」
さき「なおちゃんだったら、いいお医者さん
 になりそう」
なお「どうだろ。どーでもいいけど、ほんと
 いつもどっか行っててわたしのことなんか
 ほったらかしなんだよね、あの人」
さき「お母さんって言わないんだね」
なお「私のことはもういいでしょ、さきの家
 はどうなの?」
さき「わたしは・・・」
なお「ん?」
さき「やっぱりまた今度」
なお「あ、ずるい」
さき「ごめん。うまく言えないの」
なお「言いたくない?」
さき「ううん。…けどいつかは話せると思う」
なお「わかった」
   ひとしきりしゃべり終えて、空を見上
   げる二人。
   なお、ぽつりと、
なお「ねえ、さき」
さき「なに?」
なお「いっしょに退院できたらいいね」
さき「(微笑んで)・・・そうだね」
   空はどこまでも青い。
   鳥が飛び、飛行機雲が遠くまで伸びて
   いる。
なお「ねえ」
さき「うん?」
なお「…ちょっと面白い事しない?」
さき「?」


(14)病院・222号室(深夜)
   しんと静まりかえった深夜の病室。
   薄明かりだけの静かな空間。
   なおもさきも静かに眠っている。
   が、
さき「けほっ、けほ・・・・」
   少し咳き込むさき。
   それに気がつき、うっすらと目を開け
   るなお。
   さき、上体を起こしている。
   息苦しそうなさき。
   ベットから降り、タオルを取ると、
   再びベットに腰掛ける。
   先日と同じように、ゆっくりと丁寧に
   パジャマを脱いで上半身裸になる。
   同じく汗びっしょりの身体。
   背中を拭こうと手をまわすさき。
   やはりうまく背中は拭けない。
なお「貸して」
さき「え?」
   気がつくと、なおが上体を起こして
   さきの方を見ている。
   ゆっくりとベットから降りさきのそば
   に近寄る。
なお「貸してよ。拭けないんでしょ?背中」
   驚いた顔のさき。
   真面目な表情でじっとさきを見るなお。
さき「いいよ、一人ででき・・・」
なお「(きっぱり)いいから」
   手のひらをさし出すなお。
さき「…(躊躇している)」
   じっとなおの手と顔を交互に見る。
   生真面目ななおの表情。
さき「…ありがと、お願い」
   さき、少し微笑んで、タオルを渡す。
   なお、ベットの端に座り、さきの背を
   拭き始める。
   丁寧に、ゆっくりと。
   なおからは見えないが、嬉しい気持ち
   と哀しい気持ちが混じったような複雑
   な微笑を浮かべるさき。
   薄暗闇の中、ゆっくりと流れる時間。
なお「(拭きながら)・・・聞いてもいいか
 な?」
さき「え?」
なお「…(躊躇している)」
さき「なに?」
なお「体…なにかあるの?」
さき「なに、とつぜん?」
なお「いや・・あちこちさすってたから…
 何か、あるのかな、って・・・。」
さき「ああ。見られてたんだ…」
なお「ご、ごめん」
さき「いいよ。傷がないか確かめてただけ」
なお「傷?」
さき「薬の副作用。体が乾燥してかゆくなっ
 て寝てる間に爪でひっかいてて・・・朝、
 知らない間に、血だらけになってた」
なお「それって・・・」
さき「最近はだいぶマシなの。でもね、やっ
 ぱり疼くの。だから夜中、目が覚めたとき
 とか、どこか傷つけてないかな…ってつい
 クセで見ちゃうんだ…」
なお「傷なんて・・・」
さき「見て」
   なお、薄暗闇のなか、じっとさきの裸
   体に目をこらす。
   よくみるとわずかに赤く引っかいたよ
   うな痕が何箇所か、ある。
なお「・・・」
さき「あるでしょ?」
なお「でも・・・」
さき「汚いでしょ?」
なお「え?」
さき「傷だらけ。汚いでしょ」
   答えにつまるなお。背中をじっと見つ
   める。
   じっと空中を見て、寂しい気な笑みを
   浮かべるさき。
   さきの背中は震えている。
なお「…(さきの背中を見ている)」
   なお、真面目な顔になり、
なお「綺麗だよ」
さき「嘘」
なお「何でそんなこと言うの?」
   ゆっくりとなおの方を向くさき。
   凛、とした顔のなお。
なお「さきは綺麗だよ…汚くなんかない」
さき「嘘…汚いよ…」
なお「汚くなんかない!」
   じっと視線をそらさずさきを見るなお。
   複雑な表情のさき。
なお「…(さきを見つめている)」
さき「…(なおの視線を受けとめる)」   
   二人の間に流れる沈黙。
   やがて顔をくしゃくしゃにしながら
   笑みを浮かべ、
さき「なおちゃん…」
   裸のままゆっくりとなおの体を抱き締
   める。  
   なおの肩に顔をうずめるさき。
   泣いてはいないが。
   なおの腕の中で小刻みに震えているさき。
さき「ありがとう…」   
なお「……」
   気持ちが昂ぶり、なおの身体も震える。
   さきの身体にそっと腕を回し、きつく
   抱きしめる。
さき「……」
   お互いの欠けた何かを埋める様に、
   ゆっくりと、やがて強く求めあう…。
    
   薄暗闇の中、流れていく二人の時間。(絡み)
   遠くで救急車のサイレンが聞こえる。
   窓からは月明かりが差し込んでいる。


(13)病院・222号室(夕食後)
   夕食後、ゆったりとした時間。
   ただぼんやりとベットに寝転んでつい
   ているテレビを見ているなお。
   さき、簡易テーブルで小さな手帳に何
   か書いている。
なお「何書いてるの」
さき「(気がついて)ん?」
なお「何書いてるの、それ」
さき「日記…」
なお「書くほどのことってある?」
さき「あるよ…たくさん」
なお「あるかなあ」
さき「(微笑みながら頑として)あるよ」
なお「・・・今日って何か特別な事あったか
 な…?」
さき「ずっと二人でいたでしょ?それだけで
 じゅうぶん書くことあるよ」
なお「そうかな」
さき「そうなの(と、作業にもどる)」
なお「ふ~ん…」
   楽しそうなさき。
   視線を落とし書く作業に夢中になる。
   視線はいつのまにかテレビではなくさ
   きのほうを向いているなお。
   その視線にさきは気づかない。書くの
   に夢中。
   じっと視線をそらせず見つめているな
   お。
   部屋にはただテレビの音だけが流れて
   いる。


(11)病院・222号室(昼食)
   食事中のなおとさき。
   それぞれベットの横に簡易テーブルを
   設置し、向かい合わせで食べている。
   おせじにもおいしそうとは言えない盛
   り付けと食器。
   もくもくと食べていると、
なお「まず」
さき「そう?これでも昔に比べたらだいぶマ
 シなんだよ」
なお「・・・(黙々と食べている)」
さき「なおちゃんは」
なお「・・・」
さき「あ、なおちゃんて呼ばれるのイヤだっ
 た?」
なお「・・・別にいいよ、それで」
さき「じゃ、そう呼ぶね?なおちゃん、病院
 初めて?」
なお「…自分が入るのは」
さき「お友達のお見舞いとか」
なお「ない」
さき「一度くらいありそうなのに」
なお「あんまりそういう友達いない」
さき「私も友達はいないなあ」
なお「…入院するような友達って意味だけど」
さき「あ、そっか。ね、あのハンガーにかか
 ってる制服・・・なおちゃんって、成城学
 園?」
なお「そう」
さき「すごい!頭いいんだ!」
なお「・・・さき、は」
さき「うん、さきでいいよ、なに?」
なお「どこ行ってるの?」
さき「ああ・・・えっと東聖高校」
なお「・・・ごめん、知らない」
さき「そりゃそうだよ、3流高だし。わたし
 バカだから」
なお「(ハンガーにつるしてあるさきの制服
 を見ながら)かわいい制服じゃん」
さき「へへ、それで選んだ、なんてね」
なお「(ボソッと)いいよね、気楽そうで」
さき「・・・やっぱり厳しいの?」
なお「あんまり行きたくない」
さき「やっぱり大学とかも行くんだよね?な
 おちゃん、大学ってど・・・」
なお「(話をさえぎるように)あのさ」
さき「?なに?」
なお「ちょっと黙っててくれる?」
さき「あ…」
 しゃべっていて全然食事が進んでいない。

(12)病院・中庭
   病院の中にしてはかなり整備された綺
   麗な庭。
   屋根付きの休憩する椅子やテーブルも
   ある。
   近くには最近廃校になった学校が見え
   る。
   その中の小道を歩くパジャマにカーデ
   ィガンをはおったなおとさき。
   さき、楽しそう。
さき「いい天気ー」
なお「なんでわたしまで・・・」
さき「ずっと部屋にこもってると老けるよ」
   はいはい、とついていくなお。
さき「この病院、お金あるよねえ、こんな庭
 作るなんて」
なお「ウチラみたいなのが大金落としてって
 るからじゃないの?」
さき「そうかも」
なお「あーあ、無駄にいい天気だよ」
   言いながら空を仰ぎ見るなお。
   つられてさきも空を仰ぎ見る。
   抜けるような青い空。
   どこまでも続く空。
さき「・・・飛べたらいいのにね」
なお「…!(驚いてさきを見る)」
さき「あの鳥みたいに好きなように飛び回れ
 たらいいのにね」
   空を見ると鳥が気持ちよさそうに飛ん
   でいる。
なお「…うん(つぶやき声)」
   鳥が飛ぶ空をじっと見つめる二人。
さき「(鳥を目で追いながら)ねえ、なおち
 ゃん」
なお「ん」
さき「もし飛べたら・・・どこに行きたい?」
なお「どこかな・・・」
   考えるなお。
   答えを待つさき。
なお「誰にも邪魔されずに、ただどっかに飛
 んでいきたい。自由に好きに飛んでいたい
 …!!」
さき「一緒だね…」
なお「…」
   ゆっくりとさきのほうを見るなお。
   いつものようにニコニコと微笑んでい
   るさき。
   何かを答えようとするが、ただじっと
   さきを見つめるだけで答えが出ない。
   答えをだせないままゆっくりと小道を
   歩き出すなお。
   微笑んで、後ろをちょこちょこついて
   歩いてくるさき。
   病院の方へ戻っていく二人。


(9) 病院・222号室(朝)
   はっ!と目が覚めるなお。
   がばっ!と起き上がる。
   はぁはぁはぁ・・・。
なお「夢・・・?」
さき「おはよ」
   さらに、はっとして横を向くと、ベッド
   に腰かけ何かを書いているさきの笑
   顔が。
なお「お、おはよう」
さき「大丈夫?なんか悪い夢でも見たの?」
なお「悪い夢って・・・」
   さっき見た光景を思い出すなお。
さき「(少しおどけて)あれ?顔赤いよ?な
 んかエッチな夢でもみちゃった?」
なお「(言葉をさえぎるように)違うから!」
   きっと、睨みつけるようななお。
   その様子に驚くさき。
さき「ご、ごめん」
   怒鳴り声をあげた自分に気づいて、さ
   らに真っ赤になるなお。
   ベットから起きると、足早に部屋を出
   て行く。
さき「なおちゃん・・・」
   さき、状況がわからず、ただ見送る。

(10)トイレ内(兼、洗面所)
   ばしゃばしゃと、勢いよく顔を洗うな
   お。
   一通り洗い終わると、またじっと自分
   の顔に見入る。
   複雑な表情。
なお「・・・なんで」
   じっと見つめていても何も変わらない。
   顔から流れ落ちる水のしずく。
   服を濡らしても、気づかない。
さき「濡れるよ」
   ゆっくりと横を向くと、
   微笑んでいるさき。
   手にはタオルが。
   じっとさきの顔をみていると、タオル
   を差し出してくる。
   なお、一瞬ためらうが、タオルを受け
   取る。
なお「・・・ありがと」
さき「(にこっとして)どういたしまして」
   すぐには顔を拭かず、少しタオルを見
   つめて、ゆっくりと拭きだす。
なお「くしゅっ!!!」
   くしゃみをするなお。   
さき「ちゃんと拭かないと風邪ひくよ。部屋
 にもどろ?」


(7) 病院・222号室(深夜)
   しんと静まりかえった深夜の病室。
   薄明かりだけの静かな空間。
   なおもさきも静かに眠っている。
   と。
さき「ゴホッ、ゴホッ・・・・」
   少し咳き込むさき。
   だんだん酷くなる。
   うっすらと目を開けるなお。
   覗き見るようにさきの方を見る。
   上体を起こし、息苦しそうなさき。
   さき、ベットから降り、棚からタオル
   を取ると、戻ってくる。
   ベットに腰掛けると、おもむろに…だ
   が丁寧にパジャマを脱いで上半身を
   裸になるさき。
   スレンダーなさきの、意外とボリュー
   ムのある肢体。
なお「!(驚く)」
   少しぼんやりしたあと、全身を拭き始    
   めるさき。
   月光の下、汗をかいてキラキラと光る
   さきの裸体。
   思わず、見入ってしまうなお。
   さきは背中に手をまわす。
   だがうまく拭けない。
なお「…(こっそり見ている)」      
   もどかしげに一通り拭き終わる。
   タオルを置き、体のあちこちを細い指
   先でそっと撫でているさき。
   何かを確認するかのように・・・。
さき「…」
   寂しそうな、さきの横顔。
なお「…(見ている)」
   さき、なおの視線に気づく。
さき「え?」
   はっ、と我に返るなお。
なお「ご、ごめん。見るつもりじゃ・・・」
さき「…(微笑んでいる)」
   さき、上半身裸でもたじろがない。
なお「い、いや、あの・・・(動揺)」
さき「起こしちゃった?ごめんね…」
なお「違う、よ、なんとなく、あー…」
さき「いっつもこうなんだ・・・よく咳き込
 むの。特に夜中は」
なお「そうなんだ…」
   さき、パジャマを着ながら、
さき「いつもの事だから、気にしないで」
なお「…」
   さき、もとのように布団にもぐりこむ。
   まだ動揺してぼーっと見つめるなお。
さき「おやすみ」
なお「・・・おやすみ」
   さき、なおに背を向けるようにして眠
   りについてしまう。
   かすかに聞こえてくるさきのかすかな
   寝息・・・。
なお「……(さきのベッドを見ている)」
   やがて布団の中にもぐり込むと、いつ
   の間にか眠りにつくなお。

(8) 屋上(夢の中)
   薄暗い空。
   どこかの屋上。
   立ち並ぶビルの群れ。
   誰もいない。
   誰の気配もない。
   その中央に立ち尽くす制服姿のなお。
   空を見る。
   淀んだ空。
   ゆっくりと手を広げてみる。
   ・・・。
   何も起こらない。
   じっと目を閉じてみる。
   長い時間。
   ゆっくりと目を開ける。
   何もかわらない。
   手を下ろす。
   気が付くと目の前に・・・。
   制服姿のさき。
   微笑んでいる。微笑んでじっとなおの
   方を見ている。
   なお、何かを語りかけている。
   じっと聞いているさき。
   さらに語りかけているなお。
   何も答えないさき。
   じっと見つめるなお。
   なお、さきの唇をじっと見つめている
   と、
さき「×××××××××」
   さき、微笑みながら何かを語りかけて
   いる。
   なお、それを聞いて、それは違う、と
   首を振っている。
   さらに語りかける、さき。
   やはり首をふるなお。
   うなだれる。
   ゆっくりと、頭を上げると、

   全裸で立っているさき。
   いつの間にかなおも全裸。
なお「…!」   

   さきとなおの絡み(幻想)