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(15)屋上(昼)
   病院の屋上。
   抜けるような青い空。
   特等席に陣取り、甘い物を食べている。
   パジャマ姿のなおとさき。
   いさぎよい食べっぷりの二人。
   一角では白い洗濯物の集団がぱたぱた
   と風に揺られて音を立てている。
   (特に大きな白いシーツは風景の一部
   を完全にかくしている)
さき「顔ぐらいみせたらいいのにね、差し入
 れだけ置いてっちゃったんだね」
なお「いいよ、あの人の顔みたくないし」
さき「えー、嫌いなの?」
なお「さあね…」
さき「かわいそう、なおちゃんのお母さん…」
なお「別にいいんだ(ツンとする)」
さき「おいしかった(両手を合わせ)なおちゃ
 んのお母さん、ごちそうさま」
なお「あっもうないんだ。あーあ。もっとた
 くさん、置いてってくれれればいいのに」
さき「ぜいたく言ってるよ」
なお「全然、足りない!んーこうなったらさき、
 食っちゃうか!(と、抱きつこうとする)」
さき「(笑いながら)きゃー、やだー、なお
 ちゃんのヘンターイ!(立ち上がって、逃げ
 出す)」
   白いシーツの群れの中に逃げ込むさき。
   追いかけて群れの中に飛び込むなお。
   いきなり、白いシーツを使ったかくれ
   んぼ状態になる二人。
   白いシーツの間をぬって、姿をかくし
   たり、ひょっと顔を出したり。
   じゃれあう二人。
   シーツはめちゃくちゃ。
   寝っころがって空を見上げる二人。
さき「あーあ、怒られるよ」
なお「後で謝っとけばいいって」
さき「叱られた事無いのに」
なお「つまんないよ、そんな優等生ぶりっこ」
さき「あ、優等生のくせに」
なお「優等生ゆーなー」
   シーツの上、さらにじゃれあう二人。
   ひとしきりじゃれあった後、
さき「ねえ、なおちゃん」
なお「ん」
さき「なんでお母さん嫌いなの?」
なお「・・・嫌いって言うか」
さき「なに?」
なお「うちは母子家庭でさ。お父さんはずっ
 と前に亡くなっちゃった。医者だったの。
 けど、ぜんぜんうちにいなかった。忙しか
 ったんだと思うけど。自由な人でさ。まあ
 でも、お金かせいでくれて食べるのに困ら
 なかったのは感謝してるけど。親の見栄の
 せいであんな進学校に入れられちゃったよ」
さき「入れるだけすごいよ」
なお「一応、食べさせてもらってるし、弱み
 見せたくなかったから勉強はがんばったよ。
 でもね・・・やっぱりだめ。最近すごくつら
 くなってた。あの人、やたら私に医者に
 なれって言うんだ。医者は立派な職業だと
 思うけど。自分が本当にやりたいことかど
 うかわかんない」
さき「なおちゃんだったら、いいお医者さん
 になりそう」
なお「どうだろ。どーでもいいけど、ほんと
 いつもどっか行っててわたしのことなんか
 ほったらかしなんだよね、あの人」
さき「お母さんって言わないんだね」
なお「私のことはもういいでしょ、さきの家
 はどうなの?」
さき「わたしは・・・」
なお「ん?」
さき「やっぱりまた今度」
なお「あ、ずるい」
さき「ごめん。うまく言えないの」
なお「言いたくない?」
さき「ううん。…けどいつかは話せると思う」
なお「わかった」
   ひとしきりしゃべり終えて、空を見上
   げる二人。
   なお、ぽつりと、
なお「ねえ、さき」
さき「なに?」
なお「いっしょに退院できたらいいね」
さき「(微笑んで)・・・そうだね」
   空はどこまでも青い。
   鳥が飛び、飛行機雲が遠くまで伸びて
   いる。
なお「ねえ」
さき「うん?」
なお「…ちょっと面白い事しない?」
さき「?」


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