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霧の深い山道を迷わず歩いてゆく、りなとゆい。
「りな…どこへ行くの?」
「…」
無言でゆいの手を引っ張っぱるりな。

山の頂上。そこは霧の深い高原が広がる。
強い風で、一瞬霧が止む。
辺り一面の薄紫の花の群生。
地元の者も寄り付かない、トリカブトの高原。

「ねぇ、ゆいちゃん覚えてる?」
「え」
「ここであの子、死んじゃったの」
「…」
「ゆいちゃんの事、ブスブスって苛めるから。この花美味しいんだよ。
信じないの?って言ったら、自分から食べて…馬鹿な子」
「りなのせいじゃないよ…可哀相な事をした・・」
後悔の念に駆られるゆいにりなは言う。
「どうして?全然可哀相なんかじゃないよ」
「りな…刑事さんが何かつかんでる。もうやめよう」
「遅いよ。もう。今さら一人殺しても二人殺しても一緒じゃない?」

偶然がきっかけで、ゆいとりなはトリカブトの毒性を知る。
少年を死なせてしまった秘密をずっと心に抱えて二人で生きてきた。
秘密のままで終わるはずが、ゆいの災難…大学での集団レイプ事件、
ゆいが取った客…関口亨のSM趣味からエスカレートした暴力行為に
我慢ならず、ゆいだけを救う、という正義感を実行してしまうりな。

「私たち、いつになったら幸せになれるんだろうね…」
「…りな」
「でもそれももう終わり」
ピルケースを取り出すりな。
「ゆいちゃん、死のう?」
「…」
いつも笑顔しか見せない、りなの瞳は潤んでいた。
「…!」
思わずりなを抱きしめるゆい。
「ゆいちゃん…」
一滴(しずく)、りなの頬を伝う涙。

りなとゆいはお互いを依存しあっていた。
だが、全てはゆいの為だと判っていた。
ただ守りたかっただけなのに・・。

「りなの為だったら私、死ねるよ?」
「じゃあ証明して…」
ゆいにカプセルを渡すりな。
自分用にりなはもう一つカプセルを取り出す。
ゆいとりな…二人はニッコリと微笑みあい…
目を閉じて…最後のキス。

群馬の田舎村では東高円寺署から連絡を受けていた年配の駐在に
能登と白川は出迎えられる。

「一通りお話は聞いています。あの二人の事は小さい頃から知っています。
毒島…この村では珍しい苗字だったので。本人は可愛い娘だったのですが…
名前でよく男の子たちに苛められていました。
それを年下のりなちゃんがいつも庇っていました。
小さいのに気が強い女の子で、いじめっ子達によく食ってかかっていました。
本当に仲の良い姉妹みたいでしたね…」

「この辺りでトリカブトは手に入りますか?」
「一応、野生では生えていますが」
「最近トリカブトを扱った事件がありませんでしたか?」
「さあ、特には。村の者は皆知っていますから。注意して、決して誰も触ったりしません」
「彼女達の周囲で複数の人間が死んでいるんです!どんな小さな事でもいいので
思い出して下さい!」
駐在に粘り強く問いかける能登。
勢いに押され、駐在は過去のある事件を思い出す・・。

   × × × 

ゆいとりなが小学生だった頃、男の子が一人、
原因不明の突然死で亡くなる…と言う出来事があった。
どうやら心筋梗塞らしい。
だが子供が心筋梗塞になるのも珍しいので、検死に廻した所、
アコニチン反応が体内から検出される。
「注意してたんですが…そこいらに生えているトリカブトの花を
うっかり食べたらしいのです。あれは花や茎にも毒性がありますから」
少年の死は事故として片付けられる。

その少年はゆいとりなの幼なじみだった。

   × × ×

能登にはもう判っていた。
ゆいに関わった者の死は、すべて故意のものであると。

少年はゆいの苗字をからかい苛めていたのだろう。
サークルの男子学生はゆいやりなの集団レイプを率先したのか。
関口亨も恐らくはゆいに何かしらの危害を与えていたに違いない。
自分に近づき、害を及ぼす者は全て滅ぶ・・・。
ヘカテの蝶…トリカブトを司る女神はゆいなのか、りななのか。
ゆいとりな、二人を何としても見つけ出さなければ。
焦る能登。

そこへ二人らしき女性を、上の高原で見かけたとの情報が入る。
駐在の案内で、現場へ急行する能登と白川。

そのサークルは表向き、≪法律・人間心理研究会≫となっていた。
だが内情は女子学生を酔わせ、前後不覚にさせて集団レイプを行なう事が
体育会系の儀式の様に流行っていた。
全員が酔った上なので、あくまでも合意の上と言い張り、犯罪も成立しにくく、
関わった学生は警察トップや司法関係者の子供たち…という事もあり、
学校への莫大な寄付や名誉から、巧妙に表沙汰にはならなかった。
被害にあった女子学生は泣き寝入りするしかないのが実情であった。

一方、ゆいの大学の友人が口にしていた、
≪ヘカテの蝶≫と言う言葉。気になった能登の部下の白川は
ネットで調べてみる。
ヘカテ…古代エジプトでは出産を司(つかさど)る地母神。
ギリシャ神話では月を司る冥府神。
中世ヨーロッパでは魔術の女神~トリカブトを司る女神となっていた。
ここでもトリカブト。
やはり全ては繋がっているのか。

   × × ×

ゆいのアパートへ向かう能登と白川。
監視に立てておいた刑事の目をかいくぐり、
ゆいとりなはすでに逃亡した後だった。

二人の行き先…二人が育った故郷、群馬のあの田舎村しかない。
能登は白川を連れ、群馬県へと向かう。

刑事部屋。
関口亨中毒死事件の第一容疑者、松野ゆいの生い立ちが語られる。
松野ゆい(21)、旧姓・毒島(ぶすじま)ゆい。本籍・群馬県桐生市。
毒の島と書いて毒島(ぶすじま)。
ゆいの出身地・群馬県桐生市には比較的多い苗字だが、
多感な時期の女性には内心何とも複雑な名前であった。
ゆいが5才の時に故郷の街を離れ、群馬の田舎の村へ引っ越す。
そこで3才のりなと知り合い、二人は幼なじみとなった。
大学進学と同時に村を出て行ったゆい。
後を追うように、りなも同じ大学を受験し、その田舎の村を出て行く。

この地方には、ある植物が自生していた。
薄紫色の烏帽子(えぼし)に似た花をつけるキンポウゲ科の高山植物。
≪トリカブト≫。
花は美しく、観賞用としても栽培されているが、その根には強力な毒性がある。
耳かき一杯分でも致死量に至り、心臓麻痺を起こして生物は死んでしまう。
毒成分はアルカロイド系アコニチン。
アコニチン…関口亨、サークルの男子学生…etc.
全てはアコニチン中毒で死亡したのではなかったか…!?

一方、サークルの男子学生の関係を洗い直した所、
りなの取り巻きの一人だった事が判明する。
そのサークル内で何かトラブルがあった様だが、関係者の口は重く、
中々事情を聞き出せなかった。
渋々学生の一人から、あくまでも噂話…と言う形で聞き出した内容とは…。

再びゆいの大学へ。
能登は学生たちからゆいの身辺を洗う。
ゆいの一番身近な存在の人間は?
尋ねると、学生たちは皆口々に、姫川りなの名前をあげる。
ゆいは凛々しくてサッパリとした姉御肌。
りなは天然の甘え上手。二人とも男女問わず人気の、
大学では有名なコンビだった。
いつも二人で一緒に行動しているようであった。
ゆいと仲の良い女子学生から、皆で温泉へ行った時に、
ゆいの背中と左胸に、無数の擦り瑕(きず)を見たと言う情報を得る。
それ以降、ゆいの左胸には台形を縦にした模様の青い刺青が。
「そう言えばりなの右肩にも、同じ刺青があった」
「全く同じ?」
「ちょうどゆいの形を左右逆にした感じ。こう、ちぎれた蝶の羽みたいな」
「…」
二つの左右対称の青い刺青。
「ヘカテの蝶って言ってた」
「ヘカテ?」
「意味判んないけど。一年前の話」

一年前…この大学で起こった男子学生死亡事件。
先日の関口亨の死亡事件。
ゆいとりな、この二人に何か関わりがあるのか…?
りなの写真を手に入れると、能登と白川はビジネスホテルへ向かう。
再びこの間の年配の清掃の女性をつかまえ、りなの写真を見せる。
「ああ、この肩の刺青…確かにこの女の子です」
205号室から出ていったのは、りなに間違いない…清掃の女性はハッキリと証言する。

姫川りなが第二容疑者となった瞬間だった。

   × × ×

能登と白川はゆいとりなの住むアパートへ向かう。
「…また刑事さんか。もう話す事無いけど」
部屋から出て来たゆいはうんざり顔で能登と白川を見る。
「今日は君じゃない。一緒に住んでるりなって娘に用がある」
「…!」
一瞬、ゆいの蟀谷(こめかみ)がビクッと震える。
能登はゆいの反応を見逃さない。
「りなはいないよ。出かけてる」
「・・そうか。また来るよ」
出直す能登と白川。

もうおしまいだ・・。
全てが暴かれてしまう…。

ゆいはりなと逃げる決心をする。

刑事部屋でディスカッション。
関口に関わる人間の中で、ゆいは依然として重要参考人のままであった。
事件当日9月3日、ゆいが現場の203号室にいた証拠が必要になるとの
結論が出る。
刑事は現場百遍。足げく通うと何か証拠が見つかるかもしれない。
ビジネスホテルへ向かう態勢の能登と白川へ、他の刑事が声をかける。
「頼まれていたアコニチン関連の未解決事件の資料、ここに置いておきます」
能登が軽く目を通すと、ここ1~2年で何件かの未解決事件が。
「皆、この近辺ですよね・・」
白川が気づく。
一年前の夏。男子大学生のサークル内での死亡事件。
「…」
ゆいと同じ大学の学生である事に能登は引っかかりを覚える。

   × × ×

関口が死亡した日から幾日も経っていた。
事件のあったビジネスホテルの現場はすっかり元の日常に戻っていた。
しかし、誰も気味悪がって使いたがらず、203号室は空室のままだった。
現場を何度も隈なく調べる能登と白川。
いい加減諦め気味の白川に、辛抱強く粘る能登。
だが、何も出て来ない。

年配の清掃の女性を呼び止め、ゆいの写真を見せる。
清掃の女性はいつも違う男を連れ、このホテルに泊まるゆいを覚えていた。
9月3日、事件のあった当日、203号室近くの205号室にゆいが泊まっていた事が判る。
「他におかしな事はありませんでしたか?」
「そう言えば…その写真の人とは違う女の子が部屋から出て来ました」
ゆいの泊まる205号室から一人の若い女が出て行ったのを見たと言う。
ゆいでは無い、新たな女の存在。。。

   × × ×

後編へとつづく…。
(こちらは完結しています…)
続き、少々お待ちを~\(_)
(て、需要があるのか…!?)

ちょっと授業へ行って参ります~m(__)m

某私立大学。
「また?」
ゆいの通う大学にまで押し掛ける能登刑事。
クラブで会った時とは、また雰囲気の違うゆいに少し戸惑う能登。
「9月3日、君はビジネスホテルにいたね?フロントで確認済みだ」
「そうだっけ?行ったかも。ホテルはしょっちゅう使うから」
あっさり認めるゆい。
「君みたいな娘がなんであんな所で働いてるんだ?」
「悪い?ただのバイトじゃん」
「…」
高校生の、同じような年頃の娘を持つ能登には理解しがたかった。
「疑ってる?仮に私だとして何のために?」
「また来るよ」
質問には答えず立ち去る能登。
「もう来なくていいから…」
つぶやくゆい。

「ゆいちゃん、さっきの人誰?」
ゼミが終わったりながゆいに声をかける。
「クラブでナンパしてきたオジサン。アイツしつこくて。
こんなトコまで来たから、追い返した」
「ふ~ん・・」
小さくなる能登の後ろ姿をりなはじっと見つめる。
「それよりりな、あのクセやめた方がいいよ…私は好きじゃない」
「どうして?一回も二回も一緒じゃない?」
「…」
無邪気に微笑むりなを黙って見つめるゆい。

クラブ・JeWeL(ジュエル)。
能登は部下の白川とペアで潜入する。
40代の能登は浮いている。
ひと際目立つ二人の女。
りなを連れているゆいの姿。
能登は、ゆいの写真と見比べ、確認する。
「あれが松野ゆいか…」
ゆいと接触を試みる能登と白川。
「この男を知ってるよね?」
警察手帳と関口亨の写真を同時にゆいに見せる能登。
「…」
何、このオヤジ…。ゆいは嫌悪感を露わにしつつも、
関口の写真を見る。
「…関口さんでしょ?たまに遊ぶけど」
「9月3日、君はどこにいた?」
「覚えてない」
「思い出してくれないかな」
「なんで?彼が死んだから?」
「…!」
関口が亡くなった事実を知るゆいに、能登は一瞬反応する。
「ニュースで観たの」
事も無げに口にするゆい。
「…」
これ以上ゆいから反応を引き出せないため、出直す能登と白川。
能登はビジネスホテルへ裏を取りに向かう。

   × × ×

ビジネスホテル。フロントでゆいの写真を見せる能登。
「9月3日に、この女性が来ていませんでしたか?」
「わかりませんね。似たようなお客様は沢山いらっしゃいますので」
能登は、ホテルの防犯カメラをチェックする。
関口は判明したものの、一緒にいる女の顔が目深な帽子でハッキリと見えない。
当日の清掃担当者の一人に確認するが、やはり判らない。
能登は出直す。

杉並区・高円寺は昔からの地元商店街に、若者向けの古着屋・ライブハウスが立ち並び、
それが違和感のない不思議な空間であった。
古いものと新しいものが混ざり合う街。
二階建てのアパートの一室。
二階の窓から顔を覗かせるりな。
視線の先には神社の社(やしろ)が見える。
隣の和菓子屋からは饅頭(まんじゅう)の蒸しあがる匂いが立ちのぼる。
「ゆいちゃん、起きなよ」
ベッドで寝ているゆいの鼻先に饅頭を近づけるりな。
「!」
匂いで目を覚ますゆい。
饅頭をパクッとくわえると、寝ぼけ眼(まなこ)で
後ろからりなに抱きつく。
「ん~りなっち、愛してるぉ~…」
「やだ~、ゆいちゃん、寝ぼけないでぇ~」
楽しそうにじゃれるゆいとりな。

   × × ×

風俗店・姫じょぉん。
被害者・関口亨が利用していた風俗店。
能登と白川が店長に尋ねる。
「この写真の男に見覚えは?」
「・・うちの店によく来ていた常連さんかもしれません」
「関口が指名していたのは?」
店長から何人か複数の女の子の名前があがる。
絞っていくと関口のお気に入りでよく指名されていた
女…ゆいの存在が浮上する。
だが、今日はゆいの出勤日では無い。
能登は店の女の子からゆいの遊び場のクラブを紹介される。

クラブ・JeWeL(ジュエル)。
ブラック・ミュージック系の音楽が流れている。
フロアではグルーブに乗り体をゆらす、
B系ファッションの若い男や女たち。
ゆいの周りに群がる女の子たち。
「ゆい、踊んないの?」
「今日はやめとく」
「何で?盛り上がんないよ!皆、ゆいのダンスが観たくて来てるのに!」
昨日の出来事で気分が出ないゆい。
「ゆいちゃん、踊ろうよ!」
アイドル系の顔立ちの姫川りな(19)が声を掛ける。
「…!」
考えに捉(とら)われていたゆい、ハッとする。
無邪気なりなの笑顔に苦笑するゆい。
りなはクラブのマスコット。
妹の様に可愛がるりなに誘われると断れない。
何かを振り切る様に、ゆいはフロアへ…。

切れの良い迫力あるゆいのダンスパフォーマンス。
息を飲む周りのパフォーマーたち。
「やっぱゆいはすげぇや…」
フロアの中心で、一人、情熱的に踊るゆい。
男も女もゆいのダンスに魅了される。
憧れの眼差しでゆいを観るりな。

 × × × 

刑事部屋。
被害者の身元と名前が判明する。
広告代理店勤務、関口亨(とおる)(32)。
検証の結果…死因は急性心不全による自然死と思われていた。
だが現場で発見されたピルケースの中のカプセルを鑑識に
出したところ、微量だがアコニチン反応が出る。
そこで念のため、遺体を解剖にまわした結果、
体内からアコニチン反応が検出される。
よってアコニチンによる中毒死と判明。
「またアコニチンか…」
他の刑事の話によると、これまでにアコニチンが検出された
複数の未解決事件があったらしい。
自殺か?他殺か?
気になった能登は、それら未解決事件に関する資料を揃えて
もらうよう、その刑事に依頼する。
当時、ホテルに一緒に入った女性がいたらしい情報も報告される。
そして被害者の身辺を洗うと吉原の風俗店を頻繁に利用していた事が判明。
能登は白川と組み、聞き込み捜査を開始する。