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(20)病院内・階段
   屋上まで続く人気のない階段。
   上っていくなお。
   重い足取り。

(21)屋上(昼・曇天)
   誰もいない屋上。
   なお、ただ一人。
   まるで世界にただ一人しかいないよう。
   コンクリート・ジャングル。
   都会の中の病院。
   周りに立ち並ぶビルの群れはまるで孤
   独ななおを見下ろしてるかのよう。
   そっと、空を仰ぎ見るなお。
   ぽつ、ぽつ。
   降り出す雨。
なお「・・・雨」
   だんだんときつくなり、どしゃぶりに
   なる。
   動かない。
   その中で、空を仰ぎ見ながら立ち尽く
   すなお。
   そっと両手を広げてみる。
   飛びたい?
   飛べる?
   目を閉じる。
   両手を広げてじっと立ち尽くし続ける。
   何も変わりはしない。
   飛べるはずもない。
   ただ、降り続けるどしゃぶりの雨。
   変えれない。
   手を下ろし、目を開ける。
   雨の中の風景は、世界のおわりのよう。
   しゃがみ、うつむき、膝のあいだに顔
   をうずめるなお。
   この雨は、なおのどしゃぶりの心その
   もの。


(19)病院・222号室(昼・曇天)
   ベッドに寝ているさき。
   けほっ、けほっと咳をしている。
   かなり悪くなっている病状。
   どこかから帰ってくるパジャマ姿のな
   お。
   頭には、また新たに包帯をまかれてい
   る。
   ベットの横に簡易椅子を置き、さきの
   方を向き座るなお。
   重い表情。
   なおに気づくさき。
   弱弱しく笑顔を向ける。
さき「なおちゃん・・・」
なお「しゃべんなくていいよ」
さき「ごめんね、なおちゃんばっかり怒ら
 れて・・・」
なお「謝んなくていいよ、連れ回したの、わ
 たしだし」
さき「忘れたの?私たち、同罪だって言った
 でしょ」
なお「そんなに悪いとは思わなかった」
さき「ちゃんと言っておけばよかったね。な
 おちゃんこそ、頭は?」
なお「いちおう、異常なし」
さき「よかった」
なお「さきのお父さんとお母さん、近いうち
 に来るって看護師さんが言ってたよ」
さき「そう」
   じっと天井を見つめるさき。
   けほっ、けほっとさき。
   思わず駆け寄るなお。
なお「大丈夫?」
さき「・・・いつものことだよ」
なお「聞いていい?」
さき「なに?」
なお「どれだけ悪いの、カラダ」
さき「治らない」
   その言葉に、ドキッとなるなお。
   硬直している。
   さき、じっとなおの方を見ている。
なお「(意を決して)・・・死んじゃうって
 こと?」
さき「(微笑んで)ちがうよ、勝手に殺さな
 いで」
なお「治らないって」
さき「今日すぐ死ぬかもしれないし、おばあ
 ちゃんになるまで生きられるかもしれない。
 良くなったり、悪くなったりの繰り返し。
 ちょっと気を抜いたらすぐ悪くなる」
なお「・・・それ・・・」
さき「前に、ね、なおちゃん、わたしたちが
 病院にたくさんお金落としてるって言った
 よね。パパとママ…私のために無茶ばっか
 りしてる。治療費をずっと払い続けなきゃ
 いけないから。なのに私は完全に治らない」
なお「だからさきのパパとママはぜんぜん
 来れないんだ・・・完全に治す方法ない
 の?」
さき「今の医学じゃ無理なんだって。ときど
 き死にたくなるの。お荷物になってるのわ
 かるから。でも、死にたくない。もっとい
 ろんなことたくさんしたい」
なお「……」
さき「それになおちゃんに会えた。なおちゃ
 んともっともっといろんなことしたい。健
 康になりたい」
なお「・・・なんで、ちゃんと言ってくれな
 かったの」
さき「言ってもどうにもならないから。話し
 たら避ける人ばっかりだった。なおちゃん
 には避けられたくなかったから」
なお「(怒って)わたしが避けると思う!?」
さき「わかんない…」
なお「バカ!」
   怒って部屋を出て行くなお。
   黙って見送るしかないさき。
   天井を見つめ、そっと目をとじる。


(18)ホテル(深夜)
   けばけばしいホテルの一室。
   過剰演出ぎみな照明。
   ベッドに腰かけているなおとさき。
   二人の間には、大きなケーキ。
   小さなプレートに書かれているのは、
   『はっぴーばーすでー なお&さき』
   の文字。
さき「とうとう無断外泊だね」
なお「違うよ、ちゃんとさっき病院には今日
 はなおの親戚の家に二人で泊まって帰り
 ますって言ったじゃん」
さき「なおちゃん、言うだけ言って、電話
 切っちゃったじゃない。ほとんど無断外泊
 と変わんないよ、これ。(と、言いながら
 ニコニコと楽しそう)」
なお「いいじゃん、だったらさきは帰れば?」
さき「ここまできて、それはないよぉ」
なお「フフ…」
さき「いっしょだよ、ずっと」
   ケーキをじっと見る二人。
   ローソクの一本一本に火を灯す。
   薄明かりの中、ゆらめく炎。
なお「今日は二人の誕生日」
さき「ハッピーバースデー、なおちゃん」
なお「ハッピーバースデー、さき」
   二人でふっとローソクを吹き消し、ゆ
   っくりと見つめあう。
   自然に、顔が近づき、まぶたを閉じ、
   唇を重ねあわせる。
   長いキス。

   ゆっくりと流れていく二人だけの時間。(絡み)
    
   安らかになおの腕の中で眠るさき。
   このまま時間が止まってしまえば
   いい・・。    
   
   
さき「ゴホッ、ゴホッ!」
なお「さき!?」
   突然、激しく咳き込むさき。


(16)病院・222号室(昼)
   それぞれの制服に着替えているなおと
   さき。
   二人ともうきうきして着替えている。
   着替えているあいだも、ちょっかいだ
   したり、はしゃぎあったり。
   頭の包帯をとるなお。
   驚くさき。
   大丈夫、と、笑顔のなお。
   着替え終わってお互いを見る。
   それぞれに可愛い制服姿のなおとさき。
   満足そうな二人。
   何か企んでいるような二人の笑顔。
   制服姿のまま、こっそり部屋を出る二
   人。
   ベットの上には、
   『買い物に行ってきます。
        夜には戻ります。
             なお&さき』
   と、走り書きの書き置き。

(17)街中
   繁華街。
   たくさんの人ごみ。
   手をつないで喋りながら通りを歩く
   なおとさき。
   今までで一番楽しそうで生き生きして
   いる二人。
   他愛のないことでも、けらけら笑って
   いる。
   人ごみの中ではどこにでもいる、普通
   の女子高生の仲良し同士の二人にしか
   みえない。
   街中には、彼女たち以外にもたくさん
   の学生たちがいる為、なおさら目立た
   ない、ありふれた二人。
   いまごろ病院じゃ大騒ぎだよー、
   とか、
   帰ったら大目玉だろーなぁ、
   とか、
   他愛のないことをしゃべっている。
   (ここの一連のシーンはBGMのみで
   セリフはなし、イメージビデオ的に)

   ウインドウショッピングを楽しむ二人。
   服、バッグ、アクセサリー、ネイル。
   …etc.   

   買い食い。
   ファーストフード、アイス、クレープ、
   ドリンク。
   …etc.
   
   カラオケ。
   歌って、叫んで、笑って、泣いて。

   プリクラ。
   いろんなポーズをとって何枚もとる。
   最高の笑顔。ときには変顔。

   夜のとばりが降りてくる。
   人ごみの中を腕組みながら歩いていく
   二人。
   二人の姿は人ごみの中にまぎれていき、

   そして、見えなくなった。


(15)屋上(昼)
   病院の屋上。
   抜けるような青い空。
   特等席に陣取り、甘い物を食べている。
   パジャマ姿のなおとさき。
   いさぎよい食べっぷりの二人。
   一角では白い洗濯物の集団がぱたぱた
   と風に揺られて音を立てている。
   (特に大きな白いシーツは風景の一部
   を完全にかくしている)
さき「顔ぐらいみせたらいいのにね、差し入
 れだけ置いてっちゃったんだね」
なお「いいよ、あの人の顔みたくないし」
さき「えー、嫌いなの?」
なお「さあね…」
さき「かわいそう、なおちゃんのお母さん…」
なお「別にいいんだ(ツンとする)」
さき「おいしかった(両手を合わせ)なおちゃ
 んのお母さん、ごちそうさま」
なお「あっもうないんだ。あーあ。もっとた
 くさん、置いてってくれれればいいのに」
さき「ぜいたく言ってるよ」
なお「全然、足りない!んーこうなったらさき、
 食っちゃうか!(と、抱きつこうとする)」
さき「(笑いながら)きゃー、やだー、なお
 ちゃんのヘンターイ!(立ち上がって、逃げ
 出す)」
   白いシーツの群れの中に逃げ込むさき。
   追いかけて群れの中に飛び込むなお。
   いきなり、白いシーツを使ったかくれ
   んぼ状態になる二人。
   白いシーツの間をぬって、姿をかくし
   たり、ひょっと顔を出したり。
   じゃれあう二人。
   シーツはめちゃくちゃ。
   寝っころがって空を見上げる二人。
さき「あーあ、怒られるよ」
なお「後で謝っとけばいいって」
さき「叱られた事無いのに」
なお「つまんないよ、そんな優等生ぶりっこ」
さき「あ、優等生のくせに」
なお「優等生ゆーなー」
   シーツの上、さらにじゃれあう二人。
   ひとしきりじゃれあった後、
さき「ねえ、なおちゃん」
なお「ん」
さき「なんでお母さん嫌いなの?」
なお「・・・嫌いって言うか」
さき「なに?」
なお「うちは母子家庭でさ。お父さんはずっ
 と前に亡くなっちゃった。医者だったの。
 けど、ぜんぜんうちにいなかった。忙しか
 ったんだと思うけど。自由な人でさ。まあ
 でも、お金かせいでくれて食べるのに困ら
 なかったのは感謝してるけど。親の見栄の
 せいであんな進学校に入れられちゃったよ」
さき「入れるだけすごいよ」
なお「一応、食べさせてもらってるし、弱み
 見せたくなかったから勉強はがんばったよ。
 でもね・・・やっぱりだめ。最近すごくつら
 くなってた。あの人、やたら私に医者に
 なれって言うんだ。医者は立派な職業だと
 思うけど。自分が本当にやりたいことかど
 うかわかんない」
さき「なおちゃんだったら、いいお医者さん
 になりそう」
なお「どうだろ。どーでもいいけど、ほんと
 いつもどっか行っててわたしのことなんか
 ほったらかしなんだよね、あの人」
さき「お母さんって言わないんだね」
なお「私のことはもういいでしょ、さきの家
 はどうなの?」
さき「わたしは・・・」
なお「ん?」
さき「やっぱりまた今度」
なお「あ、ずるい」
さき「ごめん。うまく言えないの」
なお「言いたくない?」
さき「ううん。…けどいつかは話せると思う」
なお「わかった」
   ひとしきりしゃべり終えて、空を見上
   げる二人。
   なお、ぽつりと、
なお「ねえ、さき」
さき「なに?」
なお「いっしょに退院できたらいいね」
さき「(微笑んで)・・・そうだね」
   空はどこまでも青い。
   鳥が飛び、飛行機雲が遠くまで伸びて
   いる。
なお「ねえ」
さき「うん?」
なお「…ちょっと面白い事しない?」
さき「?」